経営判断ケース 2026-09-23
委託先の在庫は「見える化」できれば十分か
今回は、調達・在庫管理をテーマに、株式会社ニフコ Life Solutions Companyの在庫管理DX事例を取り上げます。
公開資料によると、同社では生産委託工場にある在庫を十分に把握できておらず、製品が廃番になった際などに、工場に残る材料の正確な数量が分からないことが課題になっていました。また、出荷時のピッキングや報告も目視・手入力に依存し、誤出荷が発生したこともあったとされています。
そこで、クラウド在庫管理システム「zaico」と、自社開発の出荷ピッキングアプリ「NIFPICK」をAPIで連携。現場ではハンディターミナルでQRコードを読み取ることで、ピッキング・出荷報告・在庫更新がつながる仕組みを構築しました。
公開されている主な効果は次のとおりです。
- 出荷報告作業:月60時間 → 月3時間
- トレーサビリティ調査:4時間 → 2分
- 委託工場の在庫を可視化し、廃番時などの不要在庫・廃棄リスクを抑制
- 今後は他の委託工場への展開も予定
ここで重要なのは、単に「在庫管理システムを入れて作業時間が減った」という話ではありません。
委託先に在庫を持つ事業では、在庫情報の遅れや不正確さが、発注、廃番判断、品質対応、顧客納期、仕入先との責任分担まで連鎖します。一方で、在庫を減らしすぎれば欠品や緊急調達のリスクが高まり、委託先との関係悪化につながる可能性もあります。
ここで考えてみましょう
問1
委託先在庫がリアルタイムで見えるようになった後、どの在庫を減らし、どの在庫はあえて残すべきでしょうか。判断基準をどのように設計しますか。
問2
今回のような仕組みを複数の委託工場へ展開するとき、単に同じシステムを横展開するだけでよいでしょうか。全社最適のために、どの業務ルール・責任範囲・KPIを共通化すべきでしょうか。
解説
1. 在庫の「見える化」はゴールではなく、判断可能な状態を作ること
在庫が正確に見えると、初めて「持つ理由」と「減らせる理由」を分けられます。
たとえば同じ100万円の在庫でも、次の2つでは意味が異なります。
- 納期が長く、代替調達が難しく、欠品すると顧客出荷が止まる材料
- 廃番予定で、今後の使用見込みが低く、他製品への転用も難しい材料
前者は一定量を持つ合理性がありますが、後者は早期に削減・転用・発注停止を検討すべき対象です。
したがって、在庫金額や在庫日数だけで判断するのではなく、少なくとも以下を組み合わせる必要があります。
- 需要の確度と変動幅
- 調達リードタイム
- 代替品・代替仕入先の有無
- 欠品時の顧客・生産への影響
- 廃番・設計変更予定
- 最低発注量や契約条件
- 他製品・他拠点への転用可能性
在庫削減そのものをKPIにすると、現場が安全在庫まで削ってしまうことがあります。重要なのは「在庫を減らしたか」ではなく、欠品リスクと余剰リスクを合わせて最適化できているかです。
2. 可視化後に必要なのは、発注・廃番・設計変更までつなげること
在庫データがリアルタイムになっても、発注や商品企画、設計変更の意思決定と分断されていれば、経営効果は限定的です。
たとえば製品の廃番を営業・商品部門が決めた後、委託工場への情報連携が遅れれば、その間も材料発注や生産が続く可能性があります。
そのため、次の段階では、
「販売見込み → 生産計画 → 発注 → 委託先在庫 → 出荷 → 廃番・設計変更」
を一つの流れとして管理することが重要です。
特に廃番やモデル変更では、決定日だけでなく、最終受注日、最終生産日、材料発注停止日、残在庫処理方法までセットで管理する必要があります。
3. 複数拠点への展開では「システム統一」より「判断ルール統一」が重要
委託工場ごとに品種、設備、契約条件、物流条件が異なるため、すべての運用を完全に同一にする必要はありません。
一方、次のような項目は共通化した方が経営管理しやすくなります。
- 在庫データの更新タイミング
- 在庫差異が出た場合の責任者と修正手順
- 長期滞留在庫の定義
- 発注点・安全在庫の決め方
- 廃番時の残在庫処理ルール
- 誤出荷・品質問題発生時のトレーサビリティ手順
- 本社と委託先の責任分界
各工場で独自運用を認めすぎると、データ形式は統一されても、数字の意味が揃わない状態になります。
4. 見るべきKPIも、作業効率だけでは足りない
今回の事例では、出荷報告時間やトレーサビリティ調査時間が大幅に短縮しています。これは重要な成果です。
ただし、経営判断としてはその先も確認したいところです。
例えば、
- 在庫差異率
- 長期滞留在庫額
- 廃棄額
- 欠品件数
- 緊急発注件数
- 誤出荷件数
- 納期遵守率
- 設計変更・廃番後に残った在庫額
- 委託先ごとの在庫回転日数
などです。
「入力工数が減った」で終わらず、調達、生産、品質、顧客対応まで改善しているかを見ることで、システム投資を経営成果へつなげられます。
実務上の示唆
在庫管理DXでは、最初の成果は工数削減として表れやすい一方、本当の価値はその後にあります。
在庫の正確な情報を使って、発注量、廃番、設計変更、委託先との契約、供給リスクまで判断できるようになると、単なる在庫管理からサプライチェーン管理へ進みます。
逆に、在庫データだけを正確にしても、発注ルールや責任分界が以前のままであれば、余剰在庫や欠品の原因は残ります。
今回のケースで確認したいポイントは、
「在庫が見えるようになったか」ではなく、「見えた在庫を使って、どの経営判断を変えられたか」
という点です。
参考情報:
ZAICO「製造業DX事例:ニフコ、zaicoとのシステム連携で月70時間超の在庫管理工数削減と廃棄ロス防止に成功」(2026年4月21日)
https://corporate.zaico.co.jp/2026/04/21/release_nifco_casestudy/
※公開情報をもとに、幅広い企業で検討できるよう経営判断ケースとして再構成しています。

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