経営判断ケース 2026-10-28
代理店で売上を伸ばすと、利益も増えるか
主テーマ:営業・販路設計
想定読了・検討時間:10~15分
【背景:公開事例】
ゾーホージャパンは2026年10月21日、ダイワボウ情報システム(DIS)とIT運用管理ソフトウェア「ManageEngine」の販売代理店契約を締結したと発表しました。地域の販売パートナーを通じて、企業・自治体・教育機関への提供体制を広げる取り組みです。発表では、導入相談から運用までの支援にも触れています。
自社だけでは届かない顧客に、他社の営業基盤を使って接点をつくる。この発想は、中小企業の販路開拓にも応用できます。ただし、公表資料から今回の契約による増収・増益の実績や取引条件は確認できません。以下の会社・数字・選択肢はすべて教材用の架空設定であり、両社の実態ではありません。
【状況:あなたは経営者】
従業員18人の「東和検査機器」は、食品工場向けの小型検査装置を製造・販売しています。営業担当は2人。遠方の工場への訪問営業には手が回りません。地域の設備商社から、販売代理店として取り扱いたいとの提案が来ました。
比較期間は導入初年度の12カ月。装置は売り切り型で、以下は期間内に納品・売上計上する台数です。金額は税抜き。共通固定費は変わらず、生産・サポート能力も想定台数まで対応できるとします。
A案:直販を続ける
・年間販売見込み:20台
・1台の販売価格:100万円
・1台の製造・配送費:55万円
・1台の営業・導入支援費:15万円
・1台当たり限界利益:30万円
B案:直販を残して代理店も使う
・代理店向け卸価格:1台75万円
・1台の製造・配送費:55万円
・自社に残る技術支援等の変動費:1台5万円
・代理店経由の1台当たり限界利益:15万円
・初年度の追加固定費:180万円(販売研修、デモ機費用、販売資料整備)
・代理店販売の見込み:30台
・30台の内訳:新たに獲得する22台と、A案でも直販できた顧客から移る8台
・移る8台以外の直販12台は維持できる見込み
代理店は30台を「目標」としており、購入保証はありません。一次窓口は代理店が担当する提案ですが、難しい技術相談は自社に戻ります。営業責任者は「販路が広がる」と賛成し、技術責任者は「支援工数と既存案件の取り合いが心配」と慎重です。
【論点】
代理店経由の売上全額を、販路拡大による上乗せと捉えてよいでしょうか。判断の中心は、新規顧客から得る利益が、直販からの移行による利益減少と追加固定費を上回るかです。取扱店数に加え、実際に提案・受注できる販売店の数も確認する必要があります。
【問い:2問】
1.初年度の利益貢献を比べ、A案とB案のどちらを選びますか。直販から移る台数が8台のままなら、新たな顧客への販売は最低何台必要でしょうか。新規販売が18台にとどまる場合も計算してください。
2.本契約の前に90日間の試行を行うなら、どの地域・顧客を対象にし、何を測定し、どの条件で拡大・修正・中止しますか。既存案件の扱い、技術支援の分担、顧客情報の共有についても決めてください。
【考える観点】
・純増の見極め:商談登録時に既存顧客・既存案件と照合できるか。代理店経由に移っただけの受注を、新規開拓と混同していないか。
・販売店の実働:研修参加数から、提案数、見積数、受注数へ進んでいるか。売りやすい顧客像を共有できているか。
・支援費用:自社の技術支援が1台5万円に収まるか。追加作業を誰が引き受け、誰が費用を負担するか。
・取引条件:案件登録の有効期間、直販との担当調整、一次対応・故障対応、更新情報の共有をどう定めるか。
・資金と学習:入金条件の変化に耐えられるか。代理店経由でも利用者の声を集め、改善に使えるか。
・試行の設計:180万円のうち試行段階で使う額と、その後に発生する額を分ける。90日の実績を単純に4倍せず、商談期間や季節性も確認する。
【短い解説】
A案の利益貢献は20台×30万円=600万円。
B案は直販12台×30万円+代理店30台×15万円-追加固定費180万円=630万円で、A案より30万円多くなります。ここでいう利益貢献は、限界利益から本件の追加固定費を引いた額であり、会社全体の営業利益ではありません。
差額を分解すると、新規22台×15万円-直販から移る8台×(30万円-15万円)-180万円=30万円です。直販から移る8台が一定なら、新規販売20台でA案と同額、21台から上回ります。新規18台なら差額は-30万円となり、B案の利益貢献は570万円です。
さらに、代理店30台への自社支援費が見込みより1台1万円増えるだけで、利益差30万円は消えます。したがって、B案は小さな見込み違いで優劣が変わります。まず未開拓地域や未接触顧客に対象を絞り、案件の純増と支援工数を確かめる進め方が考えられます。直販からの移行にも、空いた営業時間を新規開拓へ回せる価値はありますが、本ケースの数字にはその追加効果を織り込んでいません。
経営支援者は「代理店を何社増やすか」だけでなく、「誰に届き、いくら残り、何を学べるか」を経営者と一緒に確認してみてください。
【出典】
ゾーホージャパン「ゾーホージャパン、ダイワボウ情報システムとIT運用管理ソフトウェア『ManageEngine』のパートナー契約を締結」(2026年10月21日公表、2026年10月28日確認)
https://www.manageengine.jp/news/news_20261021.html

コメント