経営判断ケース 2026-09-04

経営判断ケース|実務シナリオから経営課題と判断のポイントを考える 経営

経営判断ケース 2026-09-04

発注が止まった後にも残る「見えない取引コスト」
― 金型・治具を取引先に置いたままにしないための管理

今日は金曜日なので、契約・取引適正化・経営リスクをテーマにします。

製造業では、製品の量産が終わっても、補修部品や再発注に備えて金型や治具を長期間残すことがあります。

ところが、発注が止まった後も「念のため取っておいてください」と取引先に保管を任せ続けると、その倉庫スペース、移動、棚卸し、劣化防止、廃棄判断などの負担は消えません。

実際のケース

2026年9月3日、公正取引委員会と中小企業庁は、自動車用ホース等を製造販売する株式会社ニチリンに対して勧告を行いました。

公表内容によると、ニチリンは25の取引先に、自社または自社顧客が所有する金型・治具を貸与して製品製造を委託していました。

その後、対象製品の発注を長期間行わない状態になっても、計1,048個の金型・治具について保管費用を負担せず、取引先に保管させていたとされています。対象期間は、遅くとも2024年9月1日から2026年7月28日までです。

公正取引委員会は、旧下請法上の「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するとし、未払いとなっている保管費用相当額を速やかに支払うことなどを勧告しました。ニチリンは既に、不利益額の一部を含む計978万9,525円を支払ったと公表されています。

ここで重要なのは、この問題を「保管料を払えば終わり」とだけ見ることではありません。

金型が1,048個まで残ったという事実は、発注終了後の資産・契約・取引先管理を誰が判断し、いつ終了させるかという管理プロセスそのものに問題がなかったかを考える材料になります。

ここで考えてみましょう

問1
発注が半年、1年と止まっている金型や治具について、将来また使う可能性が少しでもある場合、企業は「そのまま保管」「自社へ返却」「費用を払って保管継続」「廃棄」のどれを、どの情報を基に判断すべきでしょうか。

問2
購買部門では「まだ必要」、営業では「顧客から再注文があるかもしれない」、製造では「もう使わない」と判断が分かれる場合、取引先への負担を放置しないために、どのような管理ルールを持つべきでしょうか。

――――――――――

解説

問1の答え

判断の中心は「使う可能性があるか」ではなく、「将来使用する可能性と、そのために保有し続けるコストを比較できているか」です。

最低限、金型ごとに次の情報をそろえる必要があります。

・所有者
・保管場所
・最終発注日
・直近12か月の発注実績
・今後の需要見込み
・補修部品として必要な期間
・保管費用
・返却費用
・廃棄費用
・次回見直し日

例えば年10万円の保管費用がかかる金型を1,000個保有すれば、年間1億円です。個々では小さく見える費用も、件数が増えると経営上無視できない金額になります。

さらに、費用を発注先が負担している場合は、自社のPLには表れません。つまり「費用が存在しない」のではなく、「取引先側に費用が移っている」だけという状態になり得ます。

そのため、発注が一定期間ない金型は自動的にレビュー対象へ回し、継続保管するなら費用負担を含めて条件を明確にする、不要なら返却・廃棄を決めるという運用が必要です。

問2の答え

最も避けたいのは、誰も終了判断をしない状態です。

営業は将来の再受注を期待し、製造は念のため残し、購買は取引先が保管してくれているので問題を感じにくい。この組み合わせになると、金型は何年も残り続けます。

そこで、部門ごとの意見を集めるだけでなく、「誰が最終判断するか」と「いつ必ず判断するか」を決めておく必要があります。

実務では、金型・治具台帳に最終発注日と次回レビュー日を持たせ、例えば6か月または12か月発注がなければ、営業・製造・購買が継続理由を確認する仕組みにします。

継続する場合も、「いつか使うかもしれない」ではなく、

・対象顧客
・想定再発注時期
・年間想定数量
・保管継続期間
・費用負担者

まで明確にします。

経営上のポイント

この問題は法務・コンプライアンスだけの問題ではありません。

使われない金型や治具が大量に残る会社では、製品終了管理、補修部品管理、顧客との契約終了、固定資産・備品管理、取引先管理が分断されている可能性があります。

改善するなら、優先順位は次の通りです。

  1. 全金型・治具を台帳化し、所有者・最終使用日・保管先を確認する
  2. 長期未使用品を抽出し、需要見込みを再判定する
  3. 継続保管するものは費用と期限を契約・発注条件で明確にする
  4. 不要品は返却・廃棄し、取引先に不要な保管負担を残さない
  5. 今後は一定期間発注がないと自動的にレビューされる仕組みにする

目指すべき状態は「違反を防ぐ」だけではありません。

製品のライフサイクル終了と同時に、金型・在庫・契約・取引先負担まで閉じることができれば、見えないコストと取引リスクを同時に減らせます。

参考情報

公正取引委員会・中小企業庁
2026年9月3日「株式会社ニチリンに対する勧告について」
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/sep/260903_kinki_toriteki.html

公正取引委員会「取適法の概要」
https://www.jftc.go.jp/toriteki/toritekigaiyo/gaiyo.html

※2026年1月1日以降に発注する対象取引には、改正後の中小受託取引適正化法(取適法)が適用されます。今回の勧告では、対象時期に応じて旧下請法の規定が適用されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました