経営判断ケース 2026-08-19

経営判断ケース|実務シナリオから経営課題と判断のポイントを考える 経営

経営判断ケース 2026-08-19

設備を増やす前に、「止まっている時間」を測る

旭鉄工のIoT改善から考える、生産性と納期の改善

今日は水曜日なので、生産現場改善をテーマにします。

生産量が足りない、残業が増える、納期が詰まる――こうした状態になると、設備増強や人員追加を先に考えがちです。しかし、実際には「設備が能力不足」なのではなく、短い停止、待ち、段取り、検査時間のばらつきなどで、本来使える能力を失っていることがあります。

今回は、自動車部品メーカーの旭鉄工が、IoTを使って現場の停止やばらつきを見える化し、改善につなげた実例を起点に考えます。

実在事例:旭鉄工

旭鉄工では、IoTを活用した改善活動を進め、約100の製造ラインで生産能力を平均43%向上させた実績を公表しています。

特徴的なのは、最初から大規模なスマートファクトリーを構築したのではなく、生産数、稼働時間、停止時間など、改善に必要なデータを現場で取ることから始めたことです。

さらに、人が行う検査工程にもIoTを応用しています。エリアセンサーから信号を取得し、検査時間のばらつきを把握することで、検査工程の工数低減につなげています。

重要なのは「IoTを導入したこと」そのものではありません。

どこで止まっているか、どこで時間がばらつくかを把握し、その事実を改善活動につなげたことです。

ケース

ある製造拠点では、受注量の増加に伴い、特定ラインで次の状態が続いています。

  • 毎月残業が発生する
  • 納期遅延を防ぐため休日稼働が増える
  • 現場からは「設備能力が足りない」という声が出ている
  • 設備増設には大きな投資が必要
  • 管理側では「人を増やすか、設備を増やすか」を検討している

ところが、設備の定格能力だけを見ると、現在の受注量を処理できる計算です。

ここで確認したいのは、設備能力ではなく、実際に設備が価値を生んでいる時間です。

まず確認すること

1. 停止時間

長時間の故障だけでなく、数分程度の「チョコ停」を確認します。

1回3分でも、1日に20回発生すれば60分です。こうした短い停止は、日報だけでは見えにくいことがあります。

2. サイクルタイムのばらつき

平均時間だけではなく、正常時と遅い時の差を確認します。

例えば通常45秒の工程が、特定条件では60秒になるのであれば、その15秒差の原因を探します。

3. 段取り時間

製品切替、治具交換、材料準備、設定変更などで、設備が何分止まっているかを測ります。

4. 検査工程

加工設備だけを改善しても、検査工程が詰まれば全体の生産量は増えません。

検査時間の平均だけではなく、担当者、製品、時間帯ごとのばらつきも確認します。

5. 待ち時間

材料待ち、フォークリフト待ち、前工程待ち、承認待ちなど、「設備故障ではない停止」も分けて把握します。

選択肢

選択肢A:設備を増設する

本当に能力不足なら有効です。ただし、既存設備の停止ロスが大きい状態で増設すると、同じ問題を新しい設備にも持ち込む可能性があります。

選択肢B:人員を増やす

人作業がボトルネックなら有効です。一方、設備停止や段取りが原因なら、人を増やしても生産量が比例して増えるとは限りません。

選択肢C:停止・ばらつきを測って改善する

設備投資の前に、実稼働のデータを取ります。

「設備が足りない」という感覚を、

どの設備が、いつ、何分、何の理由で止まったか

というデータへ変えます。

実務での進め方

大規模なシステム導入から始める必要はありません。

まず1ラインを対象に、

生産数 → 稼働時間 → 停止時間 → 停止理由 → サイクルタイム → 改善後の変化

を追います。

ポイントは、データを集めることではなく、改善前と改善後を比較できる状態にすることです。

例えば、

「ラインAの停止時間が1日90分ある」

だけでは改善になりません。

そこから、

「90分のうち35分は材料待ち、25分はセンサー異常、20分は段取り、10分はその他」

まで分かれば、対策の優先順位が見えてきます。

今日のポイント

設備投資を判断するとき、確認したいのは「設備が何台あるか」だけではありません。

今ある設備の能力を、実際にどれだけ使えているかです。

旭鉄工の事例が参考になるのは、IoTそのものよりも、

現場の事実を測る → ボトルネックを特定する → 小さく改善する → 効果を測る → 次の改善へ進む

という循環を作った点です。

生産性改善では、設備を増やす前に「止まっている時間」と「ばらついている時間」を見つけるだけで、判断が大きく変わることがあります。

参考情報

  • 中小企業庁「2021年版中小企業白書」:旭鉄工のIoT活用事例。100の製造ラインで生産性が平均43%向上した事例を紹介。
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_2_4.html

  • i Smart Technologies「旭鉄工株式会社様 人による検査工程にもIoTシステム導入し生産性改善」:検査時間のばらつきを把握し、工数低減につなげた事例。
    https://www.istc.co.jp/case/case04

  • IPA DX SQUARE「旭鉄工の事例から見る製造業のDX」:旭鉄工のDX・現場改善の進め方を紹介。
    https://dx.ipa.go.jp/dx-mfg-asahi-tekko

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました