経営判断ケース 2026-08-28
人手不足だから、計画外の仕事に回してよいのか
技能実習計画の認定取消しから考える「現場都合」とコンプライアンス
今日は金曜日なので、人事・労務・コンプライアンスをテーマにします。
人手不足や繁忙期になると、現場では「今だけ別の作業を手伝ってもらおう」「同じ工場内だから問題ないだろう」という判断が起きやすくなります。
ただし、外国人技能実習のように、認定された計画に基づいて実施すること自体が制度要件になっている場合、現場都合の配置変更がそのまま法令・認定違反につながることがあります。
実際のケース
厚生労働省と出入国在留管理庁は2026年8月26日、株式会社阿部縫製など8者について、技能実習計画の認定を取り消しました。
株式会社阿部縫製については、
- 認定計画に従って技能実習を行わせていなかった
- 必須業務に、技能実習計画全体の2分の1以上の時間従事させていなかった
ことが取消理由として公表されています。
同じ8月26日の処分では、別の実習実施者について、認定計画どおりに賃金を支払っていなかったケースや、外国人技能実習機構の職員に虚偽の帳簿書類を提示したことを理由とする取消しも公表されています。
つまり問題は、「賃金を払っているか」だけではありません。
誰に、どの仕事を、どの程度の時間、どの条件で担当してもらっているか。
実際の現場運用が、認定・申請・契約・社内ルールと一致しているかまで管理対象になります。
ここで考えてみましょう
問1
繁忙期に一時的な人手不足が発生した場合、技能実習生を「同じ工場内の別作業」へ一時的に回すのであれば、賃金が同じなら問題ないと考えてよいでしょうか。
問2
認定計画や雇用条件と、現場で実際に行われている仕事のズレを、会社としてどうすれば早い段階で発見できるでしょうか。
解説
問1の答え
「同じ工場」「同じ賃金」であることだけでは判断できません。
技能実習では、認定された技能実習計画に従って実施することが前提です。今回の株式会社阿部縫製の処分でも、認定計画どおりに実施していなかったことに加え、必須業務への従事時間が計画全体の2分の1以上になっていなかったことが取消理由とされています。
現場から見れば、「今日はこのラインが忙しいから手伝ってもらう」という短期的な配置変更でも、積み重なると実際の従事時間が計画から大きく外れる可能性があります。
したがって、必要な対応は「現場判断で回してから後で考える」ではありません。
まず、その作業が認定計画の範囲内かを確認する。範囲外または継続的な変更になりそうなら、監理団体や外国人技能実習機構への確認、必要な変更手続を先に検討する、という順序になります。
人手不足への対応そのものは必要でも、その不足を埋めるために制度上の目的と異なる使い方をすると、短期的には生産が回っても、長期的には人員計画そのものを失うリスクがあります。
問2の答え
重要なのは、技能実習計画を人事部のファイルとして保管するのではなく、現場の実績と定期的に突き合わせる仕組みを持つことです。
例えば、実習生ごとに、
- 認定された業務
- 実際に担当した業務
- 業務別の従事時間
- 賃金・手当
- 配置変更の理由
を月次などで確認し、計画との差異が一定以上になったら人事・管理部門へエスカレーションする形です。
ここでのポイントは、書類を整えることではなく、実態と書類を一致させることです。
今回の行政処分では、別の実習実施者が外国人技能実習機構の職員に虚偽の帳簿書類を提示したことも取消理由になっています。実態に合わせて後から帳簿を作る、という発想ではリスクはさらに大きくなります。
経営への影響は「認定取消し」だけではない
この種の問題は、法務・人事だけの話ではありません。
例えば、10人の技能実習生を前提に生産計画を組んでいる工場で、その人員を継続的に確保できなくなれば、
生産能力低下 → 残業増加 → 納期遅延 → 外注費増加 → 受注制限
という形で事業へ波及します。
さらに、新たな採用や教育に時間がかかれば、単月の人件費だけでなく、数か月先の売上計画や納期計画まで変わります。
つまり、コンプライアンス管理の失敗は、単に「処分を受ける」という話ではなく、人員計画・生産計画・受注計画を同時に崩す経営リスクとして見る必要があります。
改善するとしたら
優先順位は次のようになります。
-
認定・契約上の条件と実際の業務を棚卸しする
- 誰が、どの作業を、何時間担当しているかを確認します。
-
現場だけで配置変更を完結させない
- 継続的な変更や認定外の可能性がある場合、人事・管理部門を通すルールを作ります。
-
月次で計画と実績の差異を見る
- 勤怠だけでなく「業務内容」まで確認します。
-
人手不足そのものを別の問題として解く
- 生産計画の見直し、応援人員、採用、外注、工程改善などで対応し、制度上の人材を単なる不足人員の穴埋めとして使わないようにします。
制度変更も確認しておきたい
技能実習制度は、2027年4月1日から新しい「育成就労制度」へ移行する予定です。育成就労制度は、人手不足分野における人材の育成・確保を目的とする制度として創設されます。
ただし、制度が変わっても、認定された計画と実際の運用を一致させる、賃金・業務・記録を正しく管理するという基本的なガバナンスの重要性は変わりません。
今日のポイント
コンプライアンス問題は、法令を知っているかどうかだけでは防げません。
現場で起きていることと、認定・契約・ルールの間にズレがないかを継続的に確認できる仕組みが必要です。
特に人手不足のときほど、「今だけだから」という例外運用が積み重なりやすくなります。
短期の人手不足を解消する判断が、将来の人材確保や生産能力を失う判断になっていないか。
ここまで含めて見ることが、実務上のコンプライアンス管理になります。
参考情報
- 厚生労働省「技能実習法に基づく行政処分等を行いました」(2026年8月26日)
技能実習法に基づく行政処分等を行いました - 外国人技能実習機構「実習実施者の皆様へ」
実習実施者の皆様へ | 外国人技能実習機構外国人技能実習機構 - 技能実習制度による人材育成を通じた国際協力を推進します。 - 外国人技能実習機構「育成就労制度について」
育成就労制度について | 外国人技能実習機構外国人技能実習機構 - 技能実習制度による人材育成を通じた国際協力を推進します。

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