経営判断ケース 2026-08-21
「昔から無料でやってもらっている」は大丈夫か
イリソ電子工業への勧告から考える、取引慣行に埋もれた“見えない負担”
今日は金曜日なので、契約・コンプライアンス・取引管理をテーマにします。
契約書や発注書の単価だけを見ていると、取引は適正に見えることがあります。しかし実務では、保管、棚卸し、検査、データ作成、配送、システム入力など、契約価格の外側にある作業を相手側へ事実上負担させているケースがあります。
今回の題材は、公正取引委員会が2026年7月24日に公表したイリソ電子工業株式会社への勧告です。
何が起きたのか
公正取引委員会によると、イリソ電子工業は車載機器等に使うコネクタや部品の製造を委託していました。その取引で、34の受託事業者に対し、合計821個の試験研究金型・製品用金型等を保管させながら、その保管費用を負担していなかったとされています。
公正取引委員会は、この行為を改正前の下請法における「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するとして勧告しました。
なお、2026年1月1日以降の発注には、改正後の**中小受託取引適正化法(取適法)**が適用されています。
このケースのポイント
問題は「金型を預けたこと」そのものではありません。
重要なのは、
- 誰のために保管しているのか
- その金型を使う発注が現在もあるのか
- 保管場所をどれだけ占有しているのか
- メンテナンスや棚卸し等の作業が発生しているのか
- その費用を誰が負担する契約になっているのか
という取引全体の実態です。
公正取引委員会のQ&Aでは、長期間発注がない場合などに金型等を保管させるときは、保管費用を支払い、廃棄・回収・継続保管について受託側と協議する必要があると説明されています。
また、「相手から請求されなかったから払わなくてよい」という考え方では整理できない点も重要です。
実務で確認したいこと
自社の委託取引を確認するときは、契約書だけでなく、実際の業務フローまで見た方が安全です。
たとえば次のような項目です。
1. 相手企業の場所を使っていないか
金型、治具、在庫、販促物、書類、返品商品などを長期間置いていないか。
2. 無償作業が常態化していないか
棚卸し、検品、報告書作成、データ入力、システム登録、再梱包などが「昔からそうしている」という理由だけで無償になっていないか。
3. 発注が止まった後も負担だけ残っていないか
製品が終売になった、発注頻度が大きく落ちた、次回発注時期が決まっていないのに、相手側だけが保管・維持を続けていないか。
4. 営業・購買・法務で認識が分かれていないか
営業や購買では「業界慣行」と認識していても、法務・コンプライアンスから見ると問題になることがあります。
選択肢
問題が見つかった場合、単純に「全部有料化する」だけが答えではありません。
- 自社で回収する
- 不要なものを廃棄する
- 保管期間を契約で決める
- 保管料や作業費を協議して設定する
- 年1回など定期的に発注状況と保管対象を棚卸しする
- 発注終了時の処理を契約条件に入れる
といった方法があります。
改善の考え方
今回のケースから得られる実務上のポイントは、「契約金額」ではなく「取引相手に何を負担させているか」を見ることです。
コンプライアンスチェックを契約書レビューだけで終わらせず、
発注 → 納品 → 保管 → 検査 → 支払 → 発注終了後
まで一連の業務として確認すると、見えにくい負担を発見しやすくなります。
特に長年続いている取引ほど、「前からこうだった」という運用が残りやすいため、定期的な見直しが有効です。
今回のケースからの気づき
大きな契約条件よりも、日常業務に埋もれた小さな無償負担の方が見逃されやすいことがあります。
取引適正化を考える際には、
「相手にお願いしている仕事を全部書き出す」
ところから始めると、契約書だけでは見えないリスクを把握しやすくなります。
参考情報
公正取引委員会「イリソ電子工業株式会社に対する勧告について」(2026年7月24日)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/jul/260724_irisodenshi.html
公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」— 金型等の保管費用に関するQ119
https://www.jftc.go.jp/toriteki/toriteki_qa.html
公正取引委員会「取適法・振興法」— 2026年1月1日施行の改正概要
https://www.jftc.go.jp/toriteki_2025/

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