題材:ベーカリー「麦の灯」の駅前店は残すべきか
ケースID:FIN-2026-10-17-MUGI
対応問題編:財務諸表ケース【問題】 2026-10-17
前日の問題編を確認し、同じ題材・数値・問い2問に解答します。補完ケースではありません。学習用の架空事例で、金額の単位は百万円です。以下の判断条件・期限は解答としての提案であり、未確認事項を事実として補ってはいません。
1.結論
現状の条件のまま「新オーブンを購入して継続」「そのまま撤退」のいずれも即決しません。11月末の更新判断までに、継続案の条件交渉と、撤退に必要な資金・顧客移行の検証を並行して進めます。
売上82を達成しても、継続案の年間資金収支は本店維持投資後で▲1.17、さらに税金・運転資金増加分が必要です。撤退案も、売上18が本店に移ってなお同▲3.80となり、閉店すれば資金繰りが改善するとはいえません。継続76と撤退18を比べると、通常年の資金収支は継続の方が0.23良いものの、その差だけで投資・雇用・顧客への影響を決めるには不十分です。
第一候補は、賃貸・設備条件を改善した継続案。ただし融資実行、下振れへの資金手当て、売上施策の裏付けがそろうことが条件です。成立しなければ、撤退資金を確保し、規模縮小等も比較して判断します。「継続条件未達なら資金手当てなしで閉店」とはしません。
2.問1:黒字でも現預金が減った理由
2026年9月期の営業からの現金創出は、
純利益4+減価償却6-売掛金増2-在庫増1+買掛金増1=8。
そこから設備取得8で残余ゼロ。短期借入が3増え、長期借入元金を7返したため、現預金は4減り、20から16になりました。
売掛金・在庫・買掛金の差による運転資金の増加は2です。利益は出ていても、設備と元金返済に現金を使っています。元金返済は損益計算書の費用ではなく、減価償却は当期の現金支出ではありません。したがって純利益4だけでは資金の増減を説明できません。
3.問1:年間採算・返済原資の比較
2026年実績を基準に、変更後12か月の平常稼働で比較します。実際の2027年初年度とは期間が異なります。将来の税額・運転資金増減は不明なので、表は税引前・運転資金増減前。一時支出、敷金返還、設備融資の受入れもここには含めません。
項目 継続76 継続82 撤退・移行18 撤退・移行0
全社売上高 196.00 202.00 138.00 120.00
全社限界利益 96.00 98.40 71.20 64.00
現金固定費 85.50 85.50 63.00 63.00
償却前営業利益 10.50 12.90 8.20 1.00
減価償却費 7.00 7.00 4.00 4.00
営業利益 3.50 5.90 4.20 ▲3.00
支払利息 1.27 1.27 1.00 1.00
税引前利益 2.23 4.63 3.20 ▲4.00
利息支払後の返済原資※ 9.23 11.63 7.20 0.00
年間元金返済 8.80 8.80 7.00 7.00
元金返済後 0.43 2.83 0.20 ▲7.00
本店維持投資4の支出後 ▲3.57 ▲1.17 ▲3.80 ▲11.00
※償却前営業利益-支払利息。税金支払・運転資金増減前の暫定的な返済原資であり、自由に返済できる最終額ではありません。
【継続案の計算】
現金固定費=実績84+更新後増加3-省エネ等1.5=85.5。
売上増6の限界利益は6×40%=2.4。既存売上76に一律40%を掛け直しません。
償却費=本店4+新オーブン3=7。
新規利息=9×3%=0.27、年間元金返済=既存7+新規9÷5=8.8。
【撤退案の計算】
現金固定費=実績84-削減24+本店追加3=63。
限界利益=本店64+移行売上18×40%=71.2。
異動する職人の給与等6は残り、本部共通費12も残ります。駅前店への共通費配賦4がなくなっても、全社の現金支出が4減るわけではありません。
撤退・移行18では全社営業利益は4.2で、現状6を1.8下回ります。「配賦後赤字4を消せば全社利益が4増える」という説明は誤りです。上表の撤退利益には、未見積もりの除却損や撤退費用は含めていません。一時支出9が全額同じ時期に費用になるとも限りません。
【必要な改善の大きさ】
継続案の本店維持投資後の資金収支は、駅前店売上増分をxとして「▲3.57+0.4x」。税・運転資金を無視しても収支ゼロに必要な売上は約84.93で、目標82では不足します。
撤退案は移行売上をyとして「▲11+0.4y」。同じ条件で収支ゼロには移行売上27.5が必要で、想定18を上回ります。
これらは限界変動費率60%、固定費・能力が一定の範囲の目安です。追加人員や配送費等が発生すれば必要売上は増えます。維持投資4は今回必要な支出であり、毎年同額が続くという仮定ではありません。
4.問1:当面の資金繰りと計算できない範囲
2026年12月末の現金見込みは、
16+3か月×(営業資金収支1-既存元金返済7÷12)=17.25。
この期間の営業資金収支1に含まれる税・利息を、別途二重に控除しない前提です。
2027年1月の大口取引だけを反映すると、
・継続:17.25-設備12+新規融資9=14.25。
・撤退:17.25-一時支出9=8.25。
撤退案はこの機械的な比較で既に最低現金10を1.75下回ります。ただし1.75は確定必要融資額ではありません。1月の営業入出金や返済、支払日順序で不足額は変わります。
継続案も融資9が設備代支払日に間に合わなければ、一時的に17.25-12=5.25となります。融資承認だけでなく、実行日と支払日の一致が必要です。
4月の本店設備支出4と、撤退時の敷金返還2まで、大口取引のみを機械的に累計すると継続10.25、撤退6.25。しかしこれは1~4月の営業入出金・元金返済等を省いた数値で、4月末現金の予測ではありません。敷金2は既存資産の回収であり売上・利益ではなく、返還遅延も検討します。
新規融資は設備代を一部賄う一方で元利返済を増やします。設備12と融資9の差額3、一時支出9と返還2の差額7は、通常年の年間採算とは別の移行時資金です。両者を平常稼働の表に単純加算して「初年度の確定収支」とはしません。
9月には短期借入13の更新審査があります。更新されない場合はその時点で最大13の返済・代替調達が必要ですが、上表の元金返済には含めていません。更新される前提と、更新されない場合を分けて資金繰りを作ります。
必要調達額は、週次の入出金を置いた上で「全期間の最低現金を10以上にする最大不足額」で求めます。季節売上、税・賞与、売掛回収、在庫、1月以降の営業収支が未見積もりなので、現段階で最終必要額や融資可否は断定できません。
5.問2:判断条件・期限・下振れへの対応
【10月末まで:証拠を集める】
店長・経理が、法人見込み客の発注量・単価・回収条件を確認。通勤客等への移行意向調査、小規模な予約受取・配送テストで、売上82と移行18を検証します。口頭の期待額を確定売上として扱いません。
本店の曜日・時間帯別能力を確認し、職人2人の役割、作業場所、追加シフトを具体化。原状回復と従業員対応の見積もりも取り直します。
【11月中旬まで:条件付きの最終案を作る】
継続は賃料増の抑制、設備延命・中古・リース、更新期間の短縮を交渉します。各案の保守費、停止リスク、月額負担、契約解除条件を比較。交渉成立や延命可能性は未確認です。リースに替えても年間支払能力の問題が消えるわけではありません。
撤退は本店への移行策、残る費用6、追加費用3、一時支出9の支払時期を確定し、資金手当てを相談します。
【11月末まで:更新判断】
継続条件は、①売上76の下振れでも最低現金10を維持できる資金計画、②設備融資9の実行と短期13の更新方針の確認、③税・運転資金込みの不足を埋める具体策、④人員・製造・販売計画の責任者確定。
撤退条件も、顧客移行を過大評価しない採算と、1月の支出を含む移行資金の確保です。両案とも未成立なら、契約上可能な短期延長・規模縮小等を協議し、選択肢の費用と期限を明示します。延長できるとは決めつけません。
【実行後の見直し基準】
毎週13週資金繰りを更新し、翌年9月までの月次表と接続します。予測現金が10を割る見通し、短期借入更新の不成立、新規融資の遅延が出た時点で直ちに金融機関と再協議。
継続時は売上目標を季節性に応じて月別化し、限界利益の累計不足が2か月続いたら、価格・営業時間・品ぞろえ・契約の再見直しを開始する案とします。これは管理上の提案基準であり、閉店の自動決定ではありません。売上だけでなく値引き、廃棄、回収遅れを確認します。
6.非財務面の判断と利害関係者別の見方
・経営者:駅前の接点や技能を残す価値はあるが、資金の裏付けが必要。追加保証・借入負担と、本店へ集中する効果を比較する。
・職人2人・若手:異動で技能継承が進む可能性がある。発酵管理・指導の担当、作業導線、評価と勤務条件を合意し、給与6を単なる削減不能費用として扱わない。
・パート従業員:本店勤務の希望が少ない。本人の意向を確認し、勤務選択肢、説明日程、必要な人員対応費を具体化する。
・顧客:高齢者・通勤客の距離と営業時間の制約を確認。予約受取や配送を試す場合は、利用意向と配送採算をセットで測る。
・本店店長:週末の売切れと平日午後の余力は同じではない。移行需要が混雑時間帯に集中しないか、品質・廃棄・残業への影響を確認する。
・金融機関:単店の配賦後利益より、全社の継続的な返済原資、資金の谷、短期借入更新、未達時の行動を重視して説明する。
・家主・仕入先:解約・原状回復・納品量変更の時期を確定し、取引条件の合意を資金計画に反映する。
7.追加で確認すべき数字
①週次・月次の売上回収、材料支払、給与・賞与・税、全借入元利返済と最小現金。
②商品・チャネル別限界利益、価格改定後の客数、法人売上の回収期間、設備削減効果1.5の根拠。
③撤退で消える24・残る6・本店追加3の契約別内訳、費用削減が始まる月。
④設備12、撤退9、敷金2、本店維持投資4の支払・返還日と見積もり、除却損・税務上の扱い。提示額の消費税等の含め方も確認する。
⑤移行売上の0・18・27.5等の感度と、本店の追加人件費・配送費・能力上限。
⑥融資9の実行条件・手数料・返済開始日、短期13の更新条件、各借入の担保・保証・財務条件。
8.数字以外に確認すべき事実
顧客が本店に来られる理由・来られない理由、法人契約の進捗、職人・パート本人の意向、本店の作業安全と製造能力、店長間の権限・役割、家主との合意、オーブンの残存寿命と保守対応、敷金返還の確実性を確認します。未締結の契約や未合意の人事異動は、実現済みとして扱いません。
9.金融機関へ説明する場合の要点
「2026年は営業で8を生みましたが、設備8と借入元金7に使い、短期借入3を足しても現金が4減りました。駅前店の配賦後赤字4が、そのまま撤退効果になるわけではありません。
継続案は売上82でも、利息・元金返済と本店維持投資後で年間▲1.17、さらに税・運転資金が必要です。撤退案は売上移行18でも同▲3.80で、別途1月に9を払い、4月に2を回収します。
両案の13週資金繰りと9月までの月次表、売上未達・移行ゼロ・短期13未更新の試算を提示します。融資は設備資金と移行・運転資金に分け、最低現金10を維持する最大不足額、実行希望日、返済原資、改善策の担当・期限を説明します。条件が成立しない場合の縮小・撤退案も示します。」
相談先の承認や条件変更は未確定です。単に「黒字だから返せる」「融資9が出れば十分」と説明しないことが要点です。
参考:利益と現金、元金返済の違いを確認する一般資料として、日本政策金融公庫「黒字なのにお金がないのはなぜ?」を参照。本ケースの数値・判断は上記架空条件による独自計算です。



コメント