経営判断ケース 2026-09-09

経営判断ケース|実務シナリオから経営課題と判断のポイントを考える 経営

経営判断ケース 2026-09-09

「予備品を減らす」だけでは設備は守れない

サントリーのRFID事例から考える、設備保全と在庫最適化の両立

今日は水曜日なので、生産・現場改善をテーマにします。前回の水曜は資金調達、その前は営業プロセスを扱ったため、今回は製造現場の「設備予備品管理」を取り上げます。

製造現場では、設備が止まったときに交換するモーター、センサー、バルブ、基板などの予備品を保有します。こうした部品は通常の商品在庫とは性格が異なり、持ちすぎれば資金や保管スペースを使う一方、減らしすぎれば故障時に設備を復旧できず、生産停止につながります。

今回のケースは、サントリープロダクツの工場におけるRFID活用です。

ケース:24,000点の設備予備品をどう管理するか

株式会社サトーが2026年9月7日に公表した事例によると、サントリープロダクツは全国10工場にRFID資産管理ソリューション「ASETRA」を導入しています。

先行事例となる「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」では、約24,000点の設備予備品を管理しています。

同工場では2021年に設備保全管理システム(CMMS)を導入し、予備品情報をシステム上で一元管理していました。しかし、実際の入出庫や棚卸は目視確認や手入力が中心で、システム上の在庫と実在庫に差が生じていました。

さらに、棚卸作業には20名体制で合計約57時間を要しており、エリアごとの管理方法を特定担当者しか把握していないため、担当者が不在時に休暇中でも電話確認が必要になるケースがあったとされています。

そこで同社は、約10社の候補からサトーのRFID資産管理ソリューション「ASETRA」を採用しました。

RFIDタグを予備品に付け、RFIDリーダーで読み取ることで、入出庫や棚卸記録を既存のCMMSへ自動登録する仕組みです。導入時には、部品の形状や収納方法に応じてタグの貼り方や保管位置も見直しました。

導入後、棚卸は1名・約2時間で実施できるようになり、工数は95%以上削減。システム在庫と実在庫の差もごくわずかになり、担当者以外でも保管場所を把握しやすくなりました。

また、在庫をリアルタイムで把握できるため、工場間で予備品を融通しやすくなり、以前のように必要以上の在庫を持つ傾向も改善したとされています。

ここで重要なのは、単に「棚卸が速くなった」という話ではありません。

設備予備品では、在庫を減らすことと、設備停止リスクを下げることを同時に考える必要があります。

ここで考えてみましょう

問1
リアルタイム在庫が見えるようになり、「ほとんど使われていない予備品」が多数見つかった場合、どの部品を減らし、どの部品を残すべきでしょうか。故障時の重要度、調達リードタイム、代替可否、他工場との共用可能性などを含め、判断基準を考えてみてください。

問2
棚卸工数を95%以上削減できた後、次に優先すべき改善は何でしょうか。在庫削減、工場間融通、発注自動化、設備保全との連携などから、成果を測る指標とあわせて考えてみてください。

解説

本当の問題は「棚卸時間」よりも、在庫情報を経営判断に使えないこと

手作業の棚卸には時間がかかります。しかし、より大きな問題は、データの信頼性が低いことで、その後の判断まで不正確になることです。

システム上は在庫があるのに実物がなければ、設備故障時に初めて欠品が判明します。反対に、実物があるのにシステムに登録されていなければ、同じ部品を追加購入して在庫が積み上がります。

つまり、設備予備品管理は単なる倉庫業務ではなく、設備稼働率、保全、調達、運転資金、事業継続をつなぐ業務です。

予備品は一律に減らさない

リアルタイム在庫が見えるようになると、「在庫を減らそう」という方向に進みやすくなります。しかし、設備予備品で一律削減を行うと逆効果になる可能性があります。

例えば、予備品は次のように性格を分けて考えると判断しやすくなります。

  • 停止影響が大きく、代替できず、調達に時間がかかる部品:安全在庫を確保する
  • 複数設備や複数工場で共通利用できる部品:拠点ごとに持たず、工場間共有を検討する
  • 使用頻度が低く、短期間で調達できる部品:保有数量を減らす候補にする
  • 設備更新などで今後使わない部品:廃棄・売却・他拠点転用を検討する

重要なのは「在庫金額を何%減らすか」ではなく、設備停止リスクを維持または低下させながら、不要在庫を減らせるかです。

95%の工数削減後に見るべきもの

棚卸工数の削減は大きな成果ですが、その次の段階では、改善目標を「作業時間」から「設備稼働と在庫最適化」へ移す必要があります。

優先順位としては、まず予備品ごとの重要度と調達リードタイムを整理し、そのうえで工場間共有を進めるのが実務的です。全工場の在庫が見えれば、ある工場で不足していても、別工場に余剰がある場合は新規購入を避けられます。

次に、在庫管理と発注システムを連携し、必要数量を下回った場合だけ補充する仕組みにすると、手作業による発注漏れと過剰発注を減らせます。サントリーの事例でも、今後の方向として発注システムとの連携が挙げられています。

さらに設備保全データと組み合わせれば、故障履歴や交換周期から「実際に使われる部品」と「ほぼ動かない在庫」を区別しやすくなります。

成果指標は「棚卸時間」だけでは足りない

次の段階では、棚卸時間に加えて、予備品欠品による設備停止件数、緊急購入件数、長期滞留在庫、在庫金額、工場間融通件数、故障発生から復旧までの時間などを見ると、現場改善と経営効果を結び付けやすくなります。

棚卸が速くなっても、必要な部品が故障時になければ設備保全としては成功とは言えません。一方、設備停止リスクを上げずに不要在庫と緊急発注を減らせれば、運転資金と生産安定性の両方を改善できます。

導入時に見落としやすい点

今回の事例では、RFIDを導入するだけではなく、部品の形状や収納方法に応じたタグの貼り方、保管場所まで見直しています。

これは重要なポイントです。現場改善では、システムを導入しても、実際の置き方や作業手順が合っていなければデータ精度が下がります。

そのため、システム導入と同時に現場の運用設計を変えることが必要です。

経営上の示唆

この事例から見えるのは、「在庫削減」と「安定生産」は対立するものではなく、正確なデータがあれば両立できる可能性が高まるということです。

設備予備品は、単なる倉庫在庫ではありません。設備停止時の復旧能力を支える、いわば生産継続のための資産です。

したがって、目指すべき状態は在庫を最小化することではなく、必要な部品を必要なときに確実に使える状態を維持しながら、不要な在庫と管理作業を減らすことです。

追加で確認すると判断精度が上がる情報は、予備品在庫総額、長期滞留在庫比率、部品ごとの調達リードタイム、設備停止時の影響、故障頻度、緊急購入実績、工場間移送に必要な時間です。

これらまで見えるようになると、RFID導入は「棚卸DX」から、設備保全・調達・在庫・BCPを一体で改善する仕組みへ発展します。

参考情報

株式会社サトー「サントリープロダクツ株式会社様 事例 RFIDで設備予備品の属人化業務を解消し、棚卸工数を95%削減」
https://www.sato.co.jp/case/suntory.html

株式会社サトー プレスリリース(2026年9月7日)
https://www.sato-global.com/ja/news/release/2026/20260907/

※公開情報をもとに、経営判断を考えるためのケースとして構成しています。

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