経営判断ケース 2026-10-14

経営判断ケース|実務シナリオから経営課題と判断のポイントを考える 経営

経営判断ケース 2026-10-14
テーマ:人材・組織
採用を増やす前に、今いる社員に投資するか

【背景:公開事例】
厚生労働省委託事業のサイトに2026年9月2日掲載された株式会社クリオネの事例では、北海道で保険薬局を運営する同社が、若手社員の定着や管理職候補の育成に課題を抱えていました。薬局長14名と本部事務職2名を対象に、ジョブ・カードを使った自己整理、参加者同士の対話、外部専門家とのキャリア相談を実施。「安心して思いを伝えられた」などの声が紹介されています。ただし、離職率の改善幅や投資回収額は公表されておらず、定着効果が実証されたとはいえません。[1]

また、日本・東京商工会議所が2026年9月15日に公表した全国2,654社の調査では、人手不足と回答した企業は60.0%でした。[2]

【状況:ここからは演習用の架空設定】
地域の設備保守会社「みなとメンテナンス」は従業員24名。直近1年で若手技術者3名が退職し、社長は今年度残りの人材対策予算120万円の使い道を決めようとしています。

退職者への聞き取りでは「将来の役割が見えない」「班長に相談しづらい」という声がありました。一方、現場は人員不足で、面談や育成の時間を確保することにも反対しています。給与水準や残業の影響は、まだ十分に調べられていません。

比較する案は次の2つです。数字はすべて架空で、税・資金の時間価値は考慮しません。

A案:採用強化
・求人広告などに120万円を投入。
・6か月以内に1名採用できる見込みは60%。
・採用後の教育と配置が順調なら、その後1年間の追加貢献利益は180万円。通常給与・変動費を差し引いた額。
・採用時の追加教育費は30万円。採用できなければ、利益も教育費も発生しない。
・既存社員の離職要因への対応は別途必要。

B案:定着・育成の試行
・外部相談、役割と成長経路の整理、班長研修に80万円。
・面談時間をつくるための代替要員に40万円。
・まず希望者8名と班長2名を対象に6か月試行。
・1名の退職を防げた場合に避けられる採用・教育・欠員対応費は150万円と見積もる。
・何名の退職を防げるかは不明。相談だけでは、待遇や業務負担の問題は解消しない。

【論点】
欠員を埋める採用と、離職の原因を減らす組織改善は、効果が出る時期も不確実性も異なります。目先の人手不足に対応しながら、社員が残りたいと思える仕事と役割をどうつくるかが判断の中心です。

【問い:2問】
1.あなたが社長なら、120万円をA案・B案のどちらに配分しますか。組み合わせや段階投入でも構いません。数字による比較と、判断前に追加で確認する情報を示してください。

2.B案を試す場合、6か月後に継続・修正・終了をどう判断しますか。確認する指標を3つ、実施責任者、面談時間を確保する方法まで決めてください。

【考える観点】
・期待値:A案は0.6×(180万円-30万円)-120万円=マイナス30万円。B案は「回避できる退職人数の期待値×150万円-120万円」。金額だけなら、B案の期待回避人数が0.8名で収支ゼロ、0.6名でA案と同額になる。
・比較の限界:A案の利益は採用後1年間、B案の試行は6か月。評価期間をそろえ、入金までの時間、追加受注の確度、残業削減や品質への影響も確認する。
・原因:給与、勤務負担、上司との関係、成長機会のうち、何が退職に結びついているか。会社の見立てと本人の声を照合する。
・実行:外部相談の内容を本人の同意なく評価に流用しない。相談を受けて変更できる役割・仕事・支援を用意し、班長の負担にも対応する。
・検証:役割や成長経路を説明できる社員の割合、合意した改善行動の実施率、残業時間などを開始前と比べる。離職件数も追うが、少人数・短期間で効果を断定しない。

【短い解説】
数字上の期待値が低くても、採用によって重要顧客への対応やサービス継続を守れるなら、A案には価値があります。B案も「面談を実施した」という実績だけでは不十分です。本人が望む成長と会社が任せたい役割をすり合わせ、仕事の配分や支援を変えられるかが成否を左右します。

一つの進め方は、退職理由と欠員による損失を先に確認し、必要な採用活動を続けながら、限られた範囲で定着支援を試すことです。両案を組み合わせる場合は、上記の費用や確率を比例で縮小せず、実際の見積もりを取り直してください。経営支援者は、期待効果の根拠と現場で実行できる条件を、経営者とともに確かめることが大切です。

【出典】
[1] 厚生労働省委託事業「株式会社クリオネ」掲載日:2026年9月2日
https://carigaku.mhlw.go.jp/koujireipost/225441/
[2] 日本商工会議所「多様な人材の活躍等に関する調査」公表日:2026年9月15日
https://www.jcci.or.jp/news/research/2026/0915140001.html
出典確認日:2026年10月14日

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