財務諸表ケース【問題】 2026-08-29

財務諸表ケース|PL・BS・CFから企業の財務状態と経営課題を読み解く 財務・会計

財務諸表ケース【問題】 2026-08-29

売上はほぼ計画通り。それでも、この設備投資は成功と言えるか

今回は、需要増を見込んで新しい生産ラインへ大型投資をした製造業A社のケースです。

単に「売上が増えた」「営業利益率が下がった」と見るのではなく、当初の投資計画 → 実績 → 運転資金 → キャッシュ → 借入返済 → 次の投資余力までつないで考えてください。

A社は産業機械向け精密部品を製造しています。既存工場の受注が増え、納期遅延も出始めたため、翌年度の売上拡大を狙って新しい自動化ラインを導入しました。

1. 投資前の状況

単位:百万円

項目 投資前実績
売上高 5,000
売上総利益 1,400
営業利益 500
減価償却費 180
当期純利益 330
営業CF 470
現預金 650
売掛金 650
棚卸資産 430
買掛金 420
既存借入金残高 300

既存借入の年間元本返済額は60百万円、年間支払利息は約12百万円です。

2. 設備投資の当初計画

新ラインの総投資額は1,200百万円を予定していました。

  • 建物・付帯設備:300百万円
  • 生産設備:900百万円
  • 自己資金:300百万円
  • 新規借入:900百万円
  • 新規借入期間:8年
  • 年間元本返済:約112.5百万円
  • 初年度利息:約16百万円

会社はこの投資によって、稼働初年度に次の水準を計画していました。

項目 計画
売上高 6,200
売上総利益 1,800
営業利益 680
減価償却費 320
当期純利益 410
営業CF 430
年末現預金 約650

経営側は、売上を約24%増やし、営業利益も500→680百万円へ増やす計画でした。

また、新ライン導入によって、

  • 生産能力:約30%増
  • 不良率:1.2%以下
  • 納期遅延:ほぼ解消
  • 在庫日数:55日前後を維持
  • 売掛金回収日数:48日前後を維持

を前提にしていました。

この計画なら、営業CFで既存借入と新規借入の年間返済を十分に吸収し、翌年度には追加の省力化投資も検討できると見込んでいました。

3. 初年度の実績

ところが、実際の初年度は次のようになりました。

PL

項目 計画 実績
売上高 6,200 6,050
売上総利益 1,800 1,560
営業利益 680 560
減価償却費 320 340
当期純利益 410 350

売上高は計画比97.6%で、表面的には大きく外していません。

一方、立ち上げ期の不良・再加工、残業、外注増加が発生し、粗利率は計画を下回りました。

BS・運転資金

項目 投資前 計画年末 実績年末
現預金 650 650 171
売掛金 650 760 980
棚卸資産 430 500 720
買掛金 420 460 480
新規借入残高 0 787.5 787.5

運転資金を見ると、売掛金と在庫が計画以上に増えています。

CF

単位:百万円

項目 計画 実績
当期純利益 410 350
減価償却費 +320 +340
運転資金増加等 ▲300 ▲620
営業CF 430 70
設備投資支出 ▲1,200 ▲1,320
新規借入 +900 +900
既存+新規借入の元利返済 約▲201 約▲201
年末現預金 約650 171

設備工事でも追加仕様が発生し、投資額は1,200百万円から1,320百万円へ120百万円超過しました。

4. 現場KPI

KPI 計画 実績
新ライン稼働率 80% 64%
不良率 1.2%以下 3.8%
売掛金回収日数 48日 60日
在庫日数 55日 74日
納期遵守率 98% 91%

受注そのものは増えていますが、新ラインの立ち上げに時間がかかり、一部製品を外注へ回しています。

営業部門では、新規顧客獲得を優先した結果、従来より長い支払条件を受け入れた取引も増えました。

ここで考えてみましょう

問1

A社の設備投資は、現時点で「計画どおり成功している」と評価できるでしょうか。

PL・BS・CF・KPIをつなぎ、

  • どの計画前提が崩れているのか
  • その結果、利益・運転資金・キャッシュ・借入返済へどのような影響が出ているのか

を整理してみてください。

問2

A社は翌年度、さらに300百万円の省力化投資を検討しています。

一方、現在の現預金は171百万円まで低下しています。

追加投資へ進む前に、今後12か月で何を優先して改善すべきでしょうか。

例えば、

  • 新ラインの稼働率・不良率改善
  • 価格・外注費・原価の見直し
  • 売掛金回収条件の改善
  • 在庫圧縮
  • 設備投資の延期・縮小
  • 借入返済条件の見直し

などがあります。

「何をするか」だけではなく、どの数字をどの程度まで改善できれば、借入返済と次の投資を両立できる状態に戻せるかまで考えてみてください。

今日は問題編なので、答えはここでは示しません。

明日の解答編では、単なる指標の良し悪しではなく、

計画 → 実績差異 → 現場要因 → 利益 → 運転資金 → Cash → 借入返済 → 投資余力

の因果関係で整理します。

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