AI・IT経営ケース 2026-09-01

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AI・IT経営ケース 2026-09-01

「Copilotを入れたから、社内検索も全部それでよいのか」
川崎重工の規程AI検索から考える、汎用AIと専門AIの使い分け

今日は火曜日なので、AI活用・ITトレンドの実践事例を取り上げます。

今回のテーマは、生成AIそのものではなく、
「どの業務に、どのAIを割り当てるか」です。

生成AIを全社導入したあとによく起きるのが、
「せっかくCopilotやChatGPT系の環境を入れたのだから、社内文書検索も全部同じAIでよいのではないか」
という考え方です。

しかし、業務によっては、自由度の高い汎用AIよりも、対象文書と検索範囲を明確に絞った専門AIの方が使いやすく、定着しやすい場合があります。

■ 実際のケース

川崎重工業のエネルギーソリューション&マリンカンパニーでは、新製品開発、設計審査、プロジェクト管理などに関する規程が大量に存在します。

細則を含まない規程だけでも合計約3,000ページにのぼり、必要な情報へたどり着くには知識や経験が必要でした。

特に設計審査では、規程に基づいて複数段階の審議を通過しなければ次工程へ進めないため、規程の見落としは単なる検索時間の問題ではなく、不適合や手戻り、工程遅延にもつながり得ます。

従来、規程ファイルはSharePoint上で管理されていました。

そこで同社は、カンパニー共通の規程AI検索ポータル「ReguNavi」を構築しました。

検索の中核には、アイアクトの

・Cogmo Search
・Cogmo Enterprise 生成AI

を採用しています。

重要なのは、川崎重工ではMicrosoft Copilotも全社的に活用している点です。

つまり、CopilotをやめてCogmoへ置き換えたのではありません。

用途を分けています。

【汎用AI】
Copilot
→ 資料作成、ファイル分析、評価、抜け漏れチェック、ファイル生成、個人・チームの業務効率化

【専門AI】
ReguNavi+Cogmo
→ 全員が共通して参照する規程を検索し、必要な根拠へすばやく到達する

という役割分担です。

■ 実際の業務フロー

従来

SharePointを開く
↓
規程名やキーワードを考える
↓
複数の文書を開く
↓
該当箇所を探す
↓
経験者に確認する

という流れでした。

ReguNaviでは、

知りたい内容を自然文やキーワードの断片で入力
↓
Cogmoが約3,000ページの規程を対象にAI検索
↓
質問意図に沿った回答を提示
↓
関連する検索結果・元文書を確認
↓
実際の設計・審査・プロジェクト業務へ反映

という流れになります。

公表された導入事例では、2025年3月の公開後、約1年間運用され、月間平均約4,000アクセス、ピーク時には7,000アクセスを超えています。

規程を探す時間を削減できたことに加え、同じ考え方で過去の不具合情報を検索する「不具合Navi」も開発され、他カンパニー・他部門への展開も進んでいます。

ここで考えてみましょう

問1

すでにCopilotやChatGPT系の生成AIを導入している企業でも、規程・マニュアル・品質基準・契約ルールなどの検索については、別の専門AIやRAG型検索を用意した方がよいでしょうか。

どのような条件なら「汎用AIで十分」、どのような条件なら「専門AIに分けるべき」でしょうか。

問2

月間4,000回使われていることだけで、このAI検索は成功と判断してよいでしょうか。

経営・業務改善の観点では、アクセス数以外に何を測るべきでしょうか。

――――――――――

解説

■ 問1の答え

結論として、すべての業務を1つの生成AIへ集約する必要はありません。

判断基準は「AIの性能」よりも、その業務で何が最も重要かです。

たとえば、

・文章のたたき台を作る
・会議内容を要約する
・アイデアを整理する
・Excelや資料を分析する

といった業務では、自由度の高い汎用AIが向いています。

一方、

・品質規程
・設計基準
・契約ルール
・社内手続き
・製品マニュアル
・過去の不具合情報

など、

「正しい社内情報へ到達すること」
「根拠となる原文を確認できること」
「利用者によって回答品質が大きく変わらないこと」

が重要な業務では、対象データを限定したRAG型の専門AIが向いています。

川崎重工の事例で重要なのは、AIを1種類に統一したことではなく、

個人の生産性向上=Copilot
組織共通の規程検索=Cogmo

と、業務目的ごとにAIを分けたことです。

ここは多くの企業で参考になります。

生成AI導入を考えるとき、
「どのAI製品を入れるか」から始めるより、

業務
↓
必要な正確性
↓
参照すべきデータ
↓
利用者
↓
求める操作性
↓
AI・システム選定

の順で考えた方が、PoC止まりになりにくくなります。

■ 問2の答え

月間4,000アクセスは、定着していることを示す重要な指標です。

ただし、利用回数だけでは「業務成果が出ている」とは言い切れません。

見るべきなのは、その4,000回によって何が変わったかです。

例えば、次のような指標です。

  1. 情報到達時間

従来20分かかっていた規程検索が5分になったなら、1回15分削減です。

仮に月4,000回すべてで同程度の削減が起きれば、単純計算では月1,000時間相当の時間削減になります。

※これは説明用の仮定であり、川崎重工が公表した実績値ではありません。

  1. 自己解決率

AI検索だけで必要情報へ到達できた割合です。

経験者や品質部門への問い合わせが減れば、検索者だけでなく問い合わせを受ける側の工数も減ります。

  1. 再検索率・検索失敗率

同じ内容を何度も聞き直している場合、アクセス数が多くても検索品質が悪い可能性があります。

「利用回数が多い=良い」とは限りません。

  1. 規程見落とし・手戻り

品質規程のAI検索なら、最も重要なのは検索時間だけではありません。

規程の見落とし、不適合、設計審査での差し戻し、手戻りが減ったかを見る必要があります。

  1. 新人・異動者の立ち上がり時間

従来はベテラン社員の経験に依存していた情報へ、経験の浅い社員でも到達できるなら、教育・引き継ぎにも効果があります。

■ このケースから見える経営上のポイント

AI導入でよくある失敗は、

「生成AIを導入した」
「利用者が増えた」
「質問回数が増えた」

で評価を止めてしまうことです。

本当に見るべきなのは、

AI利用
↓
情報探索時間の短縮
↓
判断・作業の高速化
↓
手戻りや問い合わせの削減
↓
品質・納期・生産性への改善

までつながっているかです。

また、今回の事例は、AI活用を「1社1AI」で考えないことも示しています。

汎用AI、専門RAG、AI-OCR、音声AI、予測AIなどを、業務ごとに適切に組み合わせる方が、実際の業務変革につながる場合があります。

■ 自社へ置き換えるなら

まず社内で、社員が頻繁に

「どこに書いてあるか分からない」
「詳しい人に聞かないと分からない」
「過去資料を毎回探している」

という情報を3つ挙げます。

例えば、

・就業規則・社内手続き
・製品マニュアル
・営業提案資料
・契約ひな型
・品質基準
・過去トラブル
・設備保守記録

などです。

その中から、検索頻度が高く、元データが整理されていて、回答根拠を明示しやすい領域を最初の対象にすると、実務効果を測りやすくなります。

今日のポイント

生成AI活用は「どのAIが一番優れているか」を決める競争ではありません。

業務ごとに、

汎用AIでよいのか
専門AIにすべきなのか
既存システムへ埋め込むべきなのか

を設計することが重要です。

川崎重工のケースでは、約3,000ページの規程を対象にした専用の検索体験をつくることで、AIを「一部の詳しい人が使うもの」ではなく、共通の業務基盤へ近づけています。

参考情報

・アイアクト 2026年8月25日
川崎重工への「Cogmo Enterprise 生成AI」導入成果
https://cogmo.iact.co.jp/news/20260825

・川崎重工 DX事例(ReguNavi/Cogmo)
https://cogmo.iact.co.jp/case/khi_enemari.html

・川崎重工業 公式Webサイト
https://www.khi.co.jp/

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